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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)8697号 判決

原告 宮下清次郎

被告 清輔重男

主文

被告が訴外古賀千代こと古賀蓮露に対する東京地方裁判所昭和二八年(ワ)第三五一五号判決の執行力ある正本に基き別紙〈省略〉物件目録記載の物件中庭石取交五十ケ、及び梅、桜、マキ、ツゲ、モチ、木コク、紅葉取交百本を除くその余の物件に対しなしたる強制執行はこれを許さない。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

本件につき当裁判所が昭和三十年十一月十四日なした強制執行停止決定は、庭石取交五十ケ及び梅、桜、マキ、ツゲ、モチ、木コク、紅葉取交百本を除くその余の物件についてはこれを認可し、その余はこれを取消す。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が訴外古賀千代こと古賀蓮露に対する東京地方裁判所昭和二八年(ワ)第三五一五号判決の執行力ある正本に基き別紙物件目録記載の物件に対しなしたる強制執行はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、被告は訴外古賀千代こと古賀蓮露に対する東京地方裁判所昭和二八年(ワ)第三五一五号判決の執行力ある正本に基き昭和二十九年一月二十一日東京都目黒区平町三十六番地右訴外人方において、東京地方裁判所執行吏に委任して別紙物件目録記載の物件に対し有体動産の差押をした。

二、しかしながら右物件はいずれも訴外古賀の所有にあらずして原告の所有にかかるものである。即ち、原告は昭和二十五年三月十四日、債権者訴外吉川万蔵、債務者右訴外古賀間の有体動産差押に基く競売により、右物件を含め四枚折屏風等合計三十三点の物件を金十五万円にて競落し、右競落代金を東京地方裁判所執行吏に支払い、その所有権を取得しかつ同執行吏よりその引渡を受けた。しかして、原告は直ちに右競落物件を引上げようとしたが右訴外古賀から買戻希望の懇願もあり、又原告は右訴外人に対し別に債権を有していたので(右債権につき現在右訴外人所有の建物につき強制競売申立中)、その債権回収の都合もあるので、右解決に至るまで、別紙物件目録記載の物件を含め右競落物件を右訴外人に無償保管せしめていたものである。

三、右の如く、別紙物件目録記載の物件は原告の所有にして、被告がこれに対し、右訴外古賀の所有なりとして差押をなしたことは不当であるから、被告に対し、これが排除を求めるため本訴請求に及んだと述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する」旨の判決を求め、答弁として、被告が原告主張の判決の執行力ある正本に基き原告主張の日時、場所において東京地方裁判所執行吏に委任して別紙物件目録記載の物件に対し有体動産の差押をしたことは認めるが右物件がいずれも原告の所有であることは否認する。その余の請求原因事実はすべて知らないと述べた。〈立証省略〉

理由

一、被告が訴外古賀千代こと古賀蓮露に対する東京地方裁判所昭和二八年(ワ)第三五一五号判決の執行力ある正本に基き昭和二十九年一月二十一日東京都目黒区平町三十六番地右訴外人方において、東京地方裁判所執行吏に委任して、別紙物件目録記載の物件に対し有体動産の差押をしたことは当事者間に争いがない。

二、成立に争いのない甲第一号証(有体動産競売調書)と、証人古賀蓮露の証言及び原告本人訊問の結果によれば、債権者訴外吉川万蔵より債務者右訴外古賀に対する強制執行として右物件を含め四枚折屏風等合計三十三点の物件が、東京地方裁判所執行吏により差押にかかる有体動産として昭和二十五年三月十四日東京都目黒区平町三十六番地右訴外古賀方において一括して競売され、原告がこれ等の物件を金十五万円にて競落し競落代金を支払つたことが認められるところ、前掲各証拠及びこれ等により真正に成立したと認められる甲第二号証(預証)によれば、

別紙物件目録記載の物件中庭石取交五十ケ及び梅、桜、マキ、ツゲ、モチ、木コク、紅葉取交百本を除くその余の物件は、右訴外古賀において、同訴外人方の庭園の美を添えるため配置した独立せる動産であり、原告は前記のようにこれを競落し、競落代金を支払い、執行吏よりその引渡しを受けてその所有権を取得し、直ちにその保管を同訴外人に委託したものであることが認められるけれども、証人古賀蓮露の証言と原告本人訊問の結果によれば、別紙物件目録記載の物件中、庭石取交五十ケは右訴外古賀方の庭園の沓脱石とか泉水の周囲を巻いている石とか土留の石とかいつた類のものであり、又梅、桜、マキ、ツゲ、モチ、木コク、紅葉取交百本は右庭園の鑑賞用の庭木であつて、これ等はもともとはすべて訴外古賀が同訴外人方の庭園を形成するため、他より購入して搬入したものではあるが土地に定着し、土地に定着したままでは、一般取引上においても独立した物とせられず、強制執行上独立して、有体動産又はこれに準ずるものとして取扱わるべきが如きものではないところ、これにつき前記のように有体動産として競売がなされ、原告においてこれを競落したものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。従つて、被告が右庭石取交五十ケ及び梅、桜、マキ、ツゲ、モチ、木コク、紅葉取交百本に対し有体動産としてなした差押は執行行為として全く成立しないわけではなく一応執行行為として成立するというべきではあるけれども、原告は、右庭石取交五十ケ及び梅、桜、マキ、ツゲ、モチ、木コク、紅葉取交百本につき、前記競売に関する甲第一号証の有体動産競売調書には、執行吏が競落によりこれを競落人たる原告に引渡した旨の記載があり、又甲第二号証の領証により訴外古賀がこれが保管を原告に約した事実があるにせよ、被告に対し競落に因るその所有権の取得を主張し得べき限りでないというべきである。

三、然らば原告に対しては、別紙物件目録記載の物件中、庭石取交五十ケ及び梅、桜、マキ、ツゲ、モチ、木コク、紅葉取交百本を除くその余の物件に対し被告のなした本件強制執行は不当であるから、この限度において原告の本訴請求を正当として認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条を適用し、仮執行の宣言については、その必要がないからこれを附さず、強制執行停止決定の認可、取消及びこれが仮執行の宣言につき民事訴訟法第五百四十九条、第五百四十八条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 園田治)

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